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思えば思えば、ええ恨めしい 『東海道四谷怪談』 (1)

今をも知れぬこの岩が、死なば正(まさ)しくその娘、祝言(しゅうげん)さするはこれ眼前(がんぜん)ただ恨めしき伊右衛門(いえもん)殿、喜兵衛一家の者どもも、なに安穏(あんのん)におくべきや。思えば思えば、ええ恨めしい。

【注】今おも知れぬ=いつ死ぬかわからない。 祝言=結婚。眼前=すぐ。間もなく。

鶴屋南北の最高傑作『東海道四谷怪談』(通称『四谷怪談』)「伊右衛門浪宅」のお岩様のせりふです。(歌舞伎では祟りを怖れ、お岩に敬称を付けて呼びます)。
南北が得意とした「生世話物」(下層市民をリアルに描いた作品)で、長編の上に筋が入り組んでいますから、はじめに筋立を説明したほうがわかり易いでしょう。

塩谷(浅野)の浪人・民谷(たみや)伊右衛門と同じ塩谷の浪人・四谷左門の娘・お岩は好き合って結婚します。左門は、伊右衛門が以前、主家の御用金を盗み出したことを知って、二人を離婚させます。お岩に未練がある伊右衛門は、悪事の露見を怖れ、義父の左門を殺して、その敵を討ってやると偽り、お岩を自宅に連れ帰ります。

家に戻ったお岩は、産後の肥立ちが悪く、床に伏せっています。高(こうの)(吉良)の家臣・伊藤喜兵衛は、美男子の伊右衛門に恋慕する孫娘・お梅のために、お岩を殺して、伊右衛門へ婿(むこ)入りさせようと企みます。伊右衛門も心変わりして、敵方の高家への仕官を喜兵衛に依頼します。喜兵衛は血の道(様々な婦人病の総称)の妙薬と偽ってお岩に毒薬を届け、それを呑んだお岩は苦しみ、顔は醜く崩れます。

伊右衛門に脅され、お岩と不義を犯す目的で家に来ていた按摩・宅悦から、真相を聞き出したお岩は、「息あるうちに」と喜兵衛宅へ向かおうとします。ここの「髪もおどろのこの姿、せめて女の身だしなみ、鉄漿(かね)など付けて髪梳(す)き上げ、嘉兵衛親子に詞(ことば)の礼を」というお岩のせりふも秀逸で、当時の女性の姿を鮮烈に表現しています。

『知らざあ言って聞かせやしょう』 ”心に響く歌舞伎の名せりふ” 赤坂治績著 株式会社新潮社 本体680円 より抜粋

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コメント

こんばんは。
偶然 このブログみつけました。
日光性湿疹で顔が腫れましてやお岩さんみたいになってしまいました。
で 鏡を見て
思い出したのが なにか安穏におくべきや。のせりふ。
歌舞伎が好きなので お岩さんになりきって ひとり歌舞伎してました。
ちょっと いいのみつけちゃったなと嬉しいです。

投稿: すずめ | 2013年6月 7日 (金) 午後 11時31分

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