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知らざあ言って聞かせやしょう 『青砥稿花紅彩画』 (1)

知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が、歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの児ヶ渕(ちごがふち)、江戸の百味講(ひゃくみ)の蒔銭(まきせん)を、当てに小皿の一文字(いちもんこ)、百が二百と賽銭(さいせん)の、くすね銭せえだんだんに、悪事はのぼる上の宮、岩本院で講中(こうちゅう)の、枕探しも度重なり、お手長講(てながこう)を札付きに、とうとう島を追いだされ、それから若衆の美人局(つつもたせ)、ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた祖父(じい)さんの、似ぬ声色(こわいろ)で小ゆすりかたり、名さえ由縁(ゆかり)の弁天小僧菊之助とは俺のこった。

【注】歌に残せし=石川五右衛門は安土桃山時代に実在した盗賊。「石川や、浜の真砂は尽きぬとも、世に盗人の種は尽きまじ」という辞世を詠んだとされる。 白浪=白い波と泥棒の異名である白浪を掛けている。白浪という語は、後漢の末、中国の白浪谷を根拠地にして盗みを働いた盗賊がいたという故事から生まれた。 年季勤め=期間を決めて奉公すること。 児ヶ渕=江ノ島にある渕。稚児が身投げしたことから名付けられたという。 百味講=仏前にさまざまな食物を供える信仰団体。 蒔銭=参詣者が蒔く賽銭。 小皿=一文銭を掛ける小賭博。 くすね銭=盗んだ銭。 上の宮・岩本院=ともに江ノ島にある社寺。「のぼる=エスカレートする」と「上の宮」が掛け詞になっている。 講中=連中を組んで神仏に詣でる信仰団体。 枕捜し=夜、寝ている間に金品を盗むこと。またその人。 お手長=盗癖があること。 札付き=悪い評判が広がっていること。 寺島=初演した十三代市村羽左衛門(のち五代目尾上菊五郎)の本姓の寺島と「島の中にある寺」を掛けている。 祖父さん=五代目菊五郎の祖父・三代目菊五郎。 名さえ由縁=三代目菊五郎のニ男が菊之助(初代)を名乗った。 

このせりふは、日本人ならば、誰も一度は耳にしたことがあるでしょう。河竹黙阿弥作『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』の『浜松屋』の弁天小僧のせりふです。
初演は、一八六二(文久二)年。作者は二代目河竹新七(のちの黙阿弥)。三代目歌川豊国の役者見立絵(役者をある人物に見立てた浮世絵)にヒントを得て作られました。
配役は、十三代市村羽左衛門の弁天小僧、三代目関三十郎の日本駄右衛門(にっぽんだえもん)、四代目中村芝翫の南郷力丸と青砥藤綱、初代河原崎権十郎(九代目市川團十郎)の忠信利平、三代目岩井粂三郎(八代目岩井半四郎)の赤星十三郎ほかでした。

題名の「青砥」は鎌倉中期の評定頭(ひょうじょうがしら)・青砥藤綱の事績にちなんで作劇したため、鎌倉幕府では評定所が政務を取り仕切りましたが、青砥は評定衆の頭で、清廉潔白な人物として知られています。序幕の「花見」は『新薄雪物語』の「清水花見」の、最終幕の「極楽寺山門」は『金門五三桐』「南禅寺山門」のパロディで、青砥は最終幕に出てきます。

別名題は『弁天娘女男白浪』など。通称を『弁天小僧』とも『白浪五人男』とも言います。白浪は、盗賊・盗人・泥棒のこと。黙阿弥は盗賊を主人公とした作品を多数書いたことから、「白浪作者」と言われました。『弁天小僧』と言われるのは主役が弁天小僧だから、『白浪五人男』といわれるのは五人の盗賊が出てくるため。

『知らざあ言って聞かせやしょう』 ”心に響く歌舞伎の名せりふ” 赤坂治績著 株式会社新潮社 本体680円 より抜粋

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